柔らかな微笑を湛えた彼女に、戸口を潜ったばかりのGも僅かに首肯し、無言のまま少し前まで彼女だけが陣取っていたソファに腰を下ろす。
それと入れ違うようにはゆっくりと立ち上がり、キッチンへと足を向けた。
ソファから離れるの手を捕まえ、無言のまま見上げるGに、ことりと首を傾げ、次いで自分の手を掴んだままの無骨なそれに残る手を添え、ゆっくりと屈みこみ余分な肉のそぎ落とされたかのような頬にリップノイズを立てる。
より深い口付けを求めるように伸ばされたもう一方の手を掻い潜り、再びキッチンへと足を向け、Gをその場に置き去りにする。
2か月ぶりに帰宅したGの視線がリラの背中を追いかけている。
それを意識しない訳も無いが、それでもいつものように挽きたての珈琲を淹れ、白磁のカップと共に視線の主の元に戻る。
逸らされる事無く追いかけてくる眼に、の口元に三度小さく笑みが浮かぶ。
陶器の触れあう小さな音が二人の聴覚を刺激し、それが危なげなくGの手に住まいを移す。
の手にあった当初、それは無愛想な印象しかなかったが、Gの手に渡った瞬間から酷く繊細でほんの僅かに力加減を誤っただけで砕け散ってしまいそうな、儚げな印象を与える。
一瞥して、それを感じ取ったであろうお互いの目を覗き込み、二人の口元に同時に笑みが浮かんだ。
クスクスと鈴を転がすような声で笑いながら、はGの大きな体躯がそのスペースの殆どを占領するソファの隙間に滑り込む。
胸に凭れると、広い肩と胸を包むレザージャケットから、嗅ぎなれた匂いがする。
それに安堵の吐息が漏れ、それを鋭く拾い上げたGの腕が自然な力加減でをさらに引き寄せる。
右手は器用にカップを傾け、左手はその大きな手からは想像もつかないほど優しく、繊細な動きで柔らかな髪を弄ぶ。
Gの落ち着いた心音を聞くにつけ、鼻の奥にツキンと刺激が走る。
彼の帰還を、無事を確認する度に同じように込み上げる刺激ではあるが、いつも、いつも、この心音を聞くと深い安堵が広がるのだ。
いつであろうと、どんな時であろうと、彼の前では微笑っていようと決めているだが、その実、Gを見上げる一瞬だけは潤んだ、泣き出す一歩手前のような瞳をしている。
それを知っているのは、他の誰でもない、G唯一人。
「お帰り、なさい」
「…ただいま、Meine Liebe」
Aming Dream Search様主催のお題考案企画に参加させて頂きました。
チャット会にて「Gは難しい」と仰ってる方がいらして、そこからこう書いたら面白いかも!
なんて妄想が膨らんで…
私にしては珍しくラブを意識して書いた…つもりですが(^^;
お題考案:お題考案企画参加 アイーシャさま
09.06.01 紅夜