プロローグ・1

 飛び起きた男は全身を冷たい汗で濡らし、一人嗚咽を漏らした。
広すぎる寝室には彼しか居らず、その声を聞く者はいない。
若過ぎるほど若くして背負わざるを得なかった重責と、それを分かち、支えてくれた何よりも大切な存在。
その大切な存在に、彼は遠い過去、最も残酷で心無い台詞を吐き、そして喪った。
 彼とその大切な者の間に別離など、永遠にも似た隔絶など、在りはしないと思っていた幼い頃。
だからこそ、あんな言葉が吐けたのだ。
 男は深く呼吸し、ベッドから足を下した。
間も無く彼と彼の家族は帰宅する。
永い間横たわり続けた親族間の溝を埋め、溢したピースを補うように生きていく時間が始まる。



「マジック様、間もなく本部に着艦致します。皆様、ブリーフィングルームにてお待ちです」
「すぐに行く」
 秘書の声にまだ湿り気を残す金髪をかき上げながら応え、再び嘆息した。
夢見が良くなかったのだ。
長らく顔を見に行っていない存在を思い出し、自嘲の笑みが浮かぶ。
「君にも、報告に行くよ」
 虚空を見つめ、呟く姿を息子が見たら何と言うだろう?とまた自嘲し、しっかりとプレスされた軍服に袖を通す。
「息子達の事も、紹介しておかないとなぁ。遅すぎるくらいだが、やっと君に会いに行く決心がついたよ。
 もう一度呟いて今度は柔らかな笑みを浮かべながら扉に手をかけた。