プロローグ

 少女は自分とそっくりな容姿の双子の妹の手を握り、顎を伝い落ちる赫を拭う事もせず、浮かび上がる銀色の影を見つめていた。
 片割れの顔も手も、自分同様に赤く彩られている。
それが自分達の罪であり、選び取った道だと幼いながらに理解しているが、投げ出された状況を理解する事はできなかった。
ただ、自分達を見下ろす銀色の影の蒼い瞳が憐れみを帯び、差し出された手は半透明であるにも関わらず、喪った温もりを与えてくれている。
『お前たちは、何を望む?』
 銀色の影が発した声は存外はっきりと、その存在に反して現実味を持って響く。
その言葉の意味を捉え損ねた幼い双子の姉妹に影は辛抱強く、同じ問いを重ねる。
「あいつらを、見つけて、ころす」
「もう、うばわれないように、守る」
 姉は強い眼差しで手にした短剣を握りしめ、妹は姉の手に縋りつくようにしたまま小さく呟く。
『この出会いは必然だろう。だから、お前達に力を与える。私と、契約を結ぶか?』
 淡々と紡がれる言葉に、姉妹は魅せられたように聞き入り、首肯する。
銀色の影は哀しげに微笑み、少女達の眼前に屈み込む。
その蒼い瞳を覗きこんだ次の瞬間には、二人の視界は暗転した。


 水面に小さな、最初の波紋が弧を描く。