舞い降りたるは天使か、悪魔か・1

 『Devil May Cry』と無愛想極まりないネオンを掲げた店内に一歩踏み入ると、そこは一種異様な空間を形成している。
大きく重厚なデスク、古びたジュークボックスとビリヤード台、そして何より、壁にオブジェのように掲げられたグロテスクな首。
 そんなものに見慣れた様子の二人の男女がにらみ合うようにしている。
一人は銀髪と蒼い瞳の大柄な青年であり、今一人は神秘的なオッドアイの女性。
青年は言わずと知れた、『Devil May Cry』の店主でありデビルハンターのダンテ。
女性はその仕事仲間であるレディだ。
 二人は下らない言い争いの末、こうして数十分の間睨みあいを続けている。
どちらが先に音を上げるか、既に根競べの域に達している。
それを強制的に打ち切らせたのは悪魔でも、ましてや依頼人でもない自然現象、地震だった。
 縦揺れで建物全体を上から押し潰そうとでもするかのような強烈な揺れが続き、一際大きな一振りを最後に、再び静寂が訪れた。
 だが、静寂が訪れたかのように見えるオフィス内で、ダンテとレディは殺気立ち、視線を階上の居住部分に据える。
それぞれの武器を手に、地震直後に現れた異質な気配の元を目指す。
最後の一揺れの際、突如として二階に気配が現れたのだ。
 ダンテが扉を一瞬の躊躇も無く蹴り飛ばし、それを破砕する。
二人の銃口が寸分の狂いも無く、気配の主に据えられるが、それぞれの鋭い視線は次の瞬間、驚愕に見開かれる事となる。
 物置よろしく雑多に詰め込まれ、哀れにも埃を被っていた品々は消え去り、柔らかい色調の生活感ある空間に取って代わられていたのだ。
「What kind of thing…? (どういうこった…?)」
 当惑気味に呟いたダンテの声に応えはなく、ただ、もぞりと動くシーツが再び警戒心を呼び起こす。
「…地震?」
 寝ぼけ眼で身を起し、くぁと欠伸と共に伸び上がるのは黒髪と白い肌の女。
「When did you take it? (いつ連れ込んだの?)」
「It is not in the memory.(記憶にねぇな)」
 茫然としつつも軽口の応酬が出来るあたり、この二人の神経回路はワイヤー以上だろう。
「…誰」
 二人の応酬に僅かに覚醒したらしい女が剣呑な眼を向け、無愛想に問う。
だが、残念な事にダンテにもレディにも彼女が操る言語が理解できない。
ニュース等で一度となく耳にした日本語だろう事は辛うじて分かるが、生憎と意味を聞き取る事など出来ない。
 無言のまま自分を睨む男女の様子に、彼女も何かを感じ取ったのか、暫しの沈黙ののちに再び声を発した。
「Who are you? (誰?)」
 短いその問いは不法侵入者を見る眼であり、彼女の視線の先にはダンテとレディ以外、いなかった。