信じていた「ずっと」が崩壊した瞬間

、僕は、父さんの後継者として、ガンマ団を継ぐよ」
 幼さの残る双眸に強い光を宿し、マジックはに決然と告げた。
彼の寝室にはマジックと彼の双子の片割れであるしかいない。
幼い弟達は父の葬儀の後、泣き疲れて涙に濡れた顔のまま寝入っている。
それを確認した二人はマジックの寝室でこれからの事を話し合っていたのだ。
 長男と長女であるマジックとも、未だ保護を必要とする年齢であり、それを理由に全てを奪おうとする親族も存在する。
それらから幼い弟達を守り、何者にも侵される事のない環境を与えなければならない。
「私も…っ」
は、ここにいて。ルーザーも不安がってるし、ハーレムとサービスも。だから、はここにいて?」
「…どうして、マジックは一番大変な思いをしようとするの?二人なら、もっと楽に…」
「僕はお兄ちゃんだからね。皆を守るよ。はここで『お帰り』って言って」
 力無く微笑みを浮かべるマジックに、は泣き笑いの表情で縋りつき、未だ細さを感じさせる双子の兄の肩に頬を寄せる。
「約束するわ。マジックが帰ってきたら、美味しいご飯を作って皆で賑やかにお帰りって言うわ。家の中の事は私が守る。だから、マジックも必ず『ただいま』って言ってね?」
「うん。約束する。僕たちはずっと一緒だ」
「「ずっと…」」
 お互いを抱き締め合い、誓った。
その誓いが崩壊するまで、僅か1年半でしかなかった。



 元は父のものだった書斎にマジックを残し、は逃げるようにして自分の寝室に駆け込むと、それまで詰めていた息を肺が空になるまで吐き出し、ズルズルとその場に座り込み、堪えきれなかった嗚咽を漏らした。
どこから道を違えていたのかが分からない。
何が足りなくて、マジックにあんな台詞を吐かせたのかが、分らなかった。
 じっとしていると、懸命に堪えている叫びが口をついて出てきてしまいそうで、そうなったら最後、泣き喚いて縋って理由を問い質しながらまたマジックを、家族全員を傷つけてしまいそうで、それに恐怖を抱きながらはもそもそと動き出した。
這うように床を進み、クローゼットから最小限必要な物だけを引っ張り出す。
喉の奥で絡まる塊を飲み込みながら、浅い呼吸を繰り返しながら、一心不乱に手を動かし続ける。
「姉さん、こんな時間に何をしてるの?」
 静かな、だがに驚愕を与えるに十分な音で発せられた声。
ゆるゆると振り返る姉に歩み寄る少年の姿に、びくりとの肩が揺れる。
「ルー・ザー…」
「姉さん、どこかへ、行くの?」
 最小限に抑えられた、囁くような声はそれでもしっかりとの聴覚を刺激し、少女を揺さぶる。
「ごめ、なさい…ルーザー、ごめんね…。私、行かなきゃ…」
「…どこへ?」
 真直ぐに直向きに向けられる視線を正面から捉え、問い続けるルーザーはそれとは相反するように口元を歪め、不安に揺れる手での袖口をきつく掴む。
「私が、皆を傷つけなくてすむ所へ。だから、お願い。マジックの傍にいてあげて?マジックは一人で戦おうとしてるから。必死で皆を守ろうとしてるから…」
「ならっ!どうして姉さんに邪魔だなんて?!姉さんの事は守ってくれないの?!」
 悲鳴のように発せられたルーザーの言葉は、にとって再び傷を抉る行為に等しかった。
だがそれでも、は笑みを浮かべるしかない。
家族の絆を守る事、それが彼女の務めだと信じているのだ。
「聞いちゃったのね…。でも、ほら、それはちょっとした喧嘩よ。大丈夫。だから、いつか迎えに来てね?マジックと、ルーザーと、ちみっこたちとね?」
 顔の筋肉を総動員して悪戯っぽく笑みを浮かべた姉に、ルーザーの手が伸びる。
「必ず、必ず迎えに行くから。だから、それまで泣かないで待っていて」
 自分も涙を溢しながら、それでも少年らしい真摯な瞳で姉を見つめ、その涙を拭うルーザーに、の胸に希望が宿る。
例えそれが、パンドラの箱に唯一残された希望の欠片だったとしても、彼女はこれからの孤独な時間をそれを拠り所として待ち続けるのだろう。